アウトラインで考える《その1》

はじめに

文書主義について

最近、「人材の流動化」と耳にすることが増えています。その原点は、欧米では「仕事に人材を充てる」のに対し、長く日本では「人材に仕事を当てる」という就業環境でやってきました。

欧米では、JOBを明確に定義しておき、その内容に合致した人材を雇用します。その文章を「Job Description(JD)」といいます。JDで雇用されると渡されるのが職務マニュアルです。

このように、Job中心の社会においては文書主義は不可欠になります。

どれぐらい「文書主義」かというと、アメリカの学者が書いた「組織心理学」の中で、「組織は人材がいなくなっても存在する。人材は必要になった時に雇用すればいい。そのために職務を定義したドキュメントがあれば継続することができる」と書かれていました。

文書主義の要点は、必要な文書は必ず作成することが原点になります。しかし、それだけではなく、共有価値のある文書の活用(Stock & Share)は、組織としての創造性や競争優位の観点から文書主義の根幹をなしています。

翻って日本では、戦後の復興期からバブル崩壊までは、企業は人材の確保のために終身雇用を制度としました。職務責任も年功序列を前提としてきたこともあって、文書化するより属人管理で仕事をこなしてきたという経緯があります。

昨今、経営的な利便から「人材の流動化」などと言われるようになってきましたが、制度的に体制が整っているとは思えません。

文書主義」というと日本では、お役所の専権で、仕事するために文書が必要になるのではなく、文書を作成することを仕事としていると捉える風潮がありますが、終身雇用をやめていくためにはJobに対する考え方から変えていかなければならないと思っています。

日本で文書主義が根付かなかった理由は、雇用形態もさることながら欧米における個人主義が徹底されおらず、集団主義における曖昧性が組織における調和の役割を果たしていきたといえるでしょう。

奈良時代の文書主義

これは余談ですが、東大寺の正倉院には1万点を超える文書が保管されており、国家的事業として写経を行った時の記録なども、写経に使う紙の枚数や筆や墨、書き手の報酬の布など、事細かに記録してありました。また、目録「国家珍宝帳」が残されていたことから、個々のお宝の名称も確認できています。

これを奈良博物館の館長は「文書主義(もんじょしゅぎ)」と言っています。正倉院が作られた同じころに制定された養老律令に「公式令」というのがあり、そのなかで「案成(公文書の案文の保管・収蔵及び目録作成義務)」と「文案(公文書の保管期間規定)」で、文書管理を法律として規定していました。

奈良時代の文書主義の観点は前例主義で「Stock & Share」ではありませんでしたが、文書における記録性を重視していたことは、現代の文書管理にも通じることだと言えます。文書として残しておいたからこそ千数百年を経た今日でも参照することが可能になっています。

アウトラインで考える目的とは

「アウトラインで考える」ということは、ある程度のボリュームになる文書においては、構成の組み立てから行うべきとする考え方のことです。

例えになりますが、家を建てるときに部屋から作る大工はいません。基礎を作り柱や梁といった構造から着手して、骨組みができてから部屋を作るのが手順です。どうして、そういう手順になっているかと言えば、それが合理的だからです。

文書も同じで、組織で文書を作るのは目的があります。その目的を達成するためには意図を伝え、理解してもらうためには構成(設計)の良し悪しが大きな影響を持ちます。

構成がしっかり考えられている文書は、前後の関係もスムーズであり、改定や変更もしやすくなるので、いきなり文書から書かずに骨組みを作るところから始めるようにするのが、組織文書においては重要なポイントとなります。

用語について

文章と文書

文字によって書く内容を表しているのが「文章」。「文書」は、文章が書かれている媒体を含めています。

「文書」と「文章」は、混同して使用されることも少なくありませんが、とりたてて区分けする必要もないと考えています。純粋に書く内容だけに限定する場合には「文章」を使いますが、基本的には「文書」として話を進めるようにします。

考え方として「文章」は「書く」、「文書」は「作る」というニュアンスで識別する程度いいのかと思っています。

要は統一して使用してさえいれば、読み手が混乱することは少なくて済みますが、言うほどに厳密な区分けの必要性は感じていません。

段落とパラグラフ

パラグラフ(paragraph)というと一般には「段落」を意味します。しかし、文書作成の技術として「パラグラフ・ライティング」という書法があり、「パラグラフ」にも構成要素があるとされています。

パラグラフ・ライティングでは、「パラグラフ」は、日本で普通に言われる「段落」のことではないとしています。それは、冒頭に要約文(トピック・センテンス)を置かなければならないとすることにおいて異なっているとのことです。

英英辞典で「paragraph」を調べると「新しい行で始まり、少なくとも 1 つの文を含む文章の一部」とあります。

とりあえずは、パラグラフの意味内容はいずれ対応するとして、まず、形式として「長すぎないこと(200字程度をMAXとして区切る)」「1つの話題(知ピック)に限定すること」を意識するようにして改行を入れていきましょう。

組織文書考

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