
はじめに用語について:「文章」と「文書」
「文章」とは、内容を文字化して表すこと。それを媒体に記したものが「文書」になる程度にとらえています。学術的な定義があるのかは不明ですが、私たちの考え方では、内容や書き方を文に表すのが「文章」で、媒体に文章が書かれたものが「文書」となると捉えています。
「文書」には「文章」が記されていることであって、混在したニュアンスで使われることは多いと思いますし、厳密に分けて考える必要もないと思いますが念のため冒頭で触れておきます。
「文書主義」について書く理由
文書主義というと「お役所仕事」と考えることは間違っていて、これから迎える「ジョブ型雇用」においてこそ文書主義が企業の文化に不可欠になっていくと考えています。
そもそも、それがよかったのか悪かったのかは別として、人間だけが、これだけの文明と文化を築けたのは「言葉」と「文字」によります。知識や経験や思考を文字にすることで「蓄積と共有(ストック&シェア)」できたことが、これだけの発展を生み出してきたわけです。
大宝律令や養老律令の時代の文書では「前例」を参照することが重要な文書主義の側面でしたし、仏教の教義を学ぶ上でお経は重要な文書でした。平安時代の貴族が漢文を学んだり万葉の和歌を学んだのも紙に書かれていたればこそでしたし、平安時代にはそれらを前提として華麗な文学が開花もしています。
役所の仕事として、仕事の記録をするという側面を超えてしまって、無意味であろうが無価値であろうが記録を文書化するという「繁文縟礼」という弊害もあるかもしれません。それを「お役所仕事」として捉える風潮がありますが、組織における有為な価値を文書にして残し、いかに蓄積をし、いかに共有するかは「ジョブ型雇用」の時代にこそ、組織として挑戦していくべきでしょう。
「ジョブ型雇用」の前提となる文書を「職務記述書(Job Description):JD」といい、雇用の前提条件を明確に示した文書となります。欧米では、この「職務記述書」とペアで使用する文書が「マニュアル」になるわけですが、マニュアルという言葉は、カタカナのまま日本語として概念化されていますが、私たちは「職務詳述書(Job Procedure):JP」と呼ぶことにしています。
「職務詳述書(Job Procedure):JP」については別稿で詳述しますが、なにをいつ、どのようにやり、どのような文書を作成し、それをどのように利用するのかの手順を文書にすることは、職務を属人化に依存するのではなく、かつ、無駄を排除し人材の流動を助ける有効な手段だと考えています。
今までの「文書主義」という言葉のニュアンスでは、「記録」や「証拠」に重きが置かれていましたが、「ジョブ型雇用」の時代を迎えることで企業の競争優位に資するというポイントと人材の流動化を積極的に受け入れていくために「職務詳述書(JP)」が重要な文書となることを含めて「文書主義」と呼んでいます。
「文書管理」とは
文書主義を組織文化として定着させるするためには、文書が適正に管理されている必要があります。
文書管理には二つの側面があります。一つは「守り」の側面で、他一つは「攻め」の側面になります。
「守りの文書管理」とは、まずは法定で保存期間が定められている文書、および説明責任などで組織の規定として保存年数が定められている文書を、指定された年数、所在も明確にして保存しておく必要があり、保存年数に達したならきちんと確認(記録)をとって廃棄していかなければなりません。
「攻めの文書管理」とは、「蓄積と共有(Stock and Share)」に尽きます。単に蓄積しても活用がなければ、それがいかに「宝の山」であっても意味を成す資料にはなりません。組織として、前に進んでいくうえで日々発生するホットな情報を、効率的に共有していくことができることで競争優位に立つことができますし、他に先んじた創造につなげる可能性を高めることに直結させられます。
例えば、スリーエムのポストイットは、そもそもは失敗策だったものを異なる利用に思いつくことで世界的な大ヒットとなりました。
「iDMS」という文書管理の仕組みを説明するところで詳述しますが、文書の分類を組織と職務で分類し、組織文書の性質を「定例」「常用」「案件」の3分類でとらえ、保存年数を組み合わせます。判断が必要なのは保存年数だけになります。
大中小分類のような、ややもすれば主観が混じるような分類法は、長い時間になかで破綻しやすいという経験から、極力、客観的に分類するべきでしょう。
「分掌」という平安時代のような言葉を使っている組織もありますが、組織は「職務(JOB)」で動いており、その結果として発生するのが「組織文書」です。
その「組織文書」を資産として活用することを目指すのも文書管理の重要な役割だと考えています。
「Job型雇用」の時代が幕を開けるこれからの組織は、人材が流動していくことを前提にした取り組みが求められていくことでしょう。
まとめ
「文書主義」を標榜し、「職務記述書(Job Description):JD」と「職務詳述書(Job Procedure:JP)」を用意し、常時見直しながら実勢に合わせて即時的に修正していくこと。この「職務詳述書」がなければ「Job型雇用」に対応できませんし、組織内の人事異動においても引継ぎに不要なコストが発生してしまいます。
「職務詳述書」が明確に文書化されているなら、職務遂行において発生する組織文書の扱いも規定されることになります。
組織内における「職務詳述書」の作成については、別稿で詳述します。「組織文書の作成」についても別稿で考え方を提示しますので参考にしてください。