はじめに用語について:「文章」と「文書」
「文章」とは、内容を文字化して表すこと。それを媒体に記したものが「文書」になります。学術的な定義があるのかは不明ですが、内容に主眼を置く場合は「文章」で、それ以外は「文書」としています。
厳密に分けて考える必要もないと思いますが念のため冒頭で触れておきます。
マニュアル考
「マニュアル」という言葉は戦前には使われていませんでした。似た文書の呼称として「手引書」「説明書」あたりが該当しました。戦後になって、アメリカ企業の影響を受けて「マニュアル」という言葉と概念が持ち込まれましたが、「手引書」「手順書」と「マニュアル」とは違うというような説明もありますが、それは勝手な解釈に過ぎません。
せっかく日本語化して定着したのに、いくつかの解釈があるようではかえって概念化で失敗しているように思います。「マニュアル」は、よくても悪くても日本語化していて、大方の人にとっては「使用説明書」「操作説明書」「取扱説明書」として認識されていると思います。
仕事の場面では「手順書(Procedure)」「手引書」などを包括して「マニュアル」と呼称しています。ここで新たな和語を提唱したところで、すでに定着している概念を変えることは難しいので「マニュアル」で通します。
英国で600人規模の会社として成長させ、上場までしてきた社長だった人から聞いた話ですが、毎日のように各部署からマニュアルの改訂の決済が上がってきていたそうです。マニュアルに対する考え方の事例と言えます。
業務と職務
これもいろいろな解釈があるようです。しかし「業」と「職」という漢字を見れば判然としています。また、英語にしてみると「業務=business」で「職務=job」です。
学術的な定義があるのかはわかりませんが、「業務」と「職務」も、いろいろな定義がされています。ワードクラフトでは、
業務:組織が担う役割
職務:人材が担う役割
と定義しています。「業務」は「職務」の集合体としての存在であり、「業務」の有機的集合が組織としての実質的機能になります。
職務を「細胞」と例えるなら、「業務」はそれぞれの器官と言えます。それらが全て有機的に結合することで生態系をなし、成長や変異ができるわけです。
「文書主義」について書く理由
文書主義というと「お役所仕事」と考えることは間違っていて、これから迎える「ジョブ型雇用」においてこそ文書主義が企業の文化に不可欠になっていくべきだと考えています。
それが地球にとっていいことだったのかは別として、人間だけが、これだけの文明と文化を築けたのは「言葉」と「文字」によります。知識や経験や思考を文字にすることで「蓄積と共有と移動(ストック&シェア&トランスファー)」ができました。文字がないころは、稗田阿礼のように記憶力が優れている人材に記憶してもらって口伝で伝承する以外に方法がありませんでした。
大宝律令や養老律令の時代の文書管理は「前例」が文書管理の主たる役割でした。平安時代の貴族が漢文を学んだり万葉の和歌を学んだのも紙に書かれていたればこそでしたし、平安時代には「蓄積と共有と移動」によって華麗な文学が開花しています。
役所の仕事の帰結として仕事を記録するために文書にするべきところを、文書を作成することが仕事になってしまっていることを「繁文縟礼(はんぶんじょくれい)」と言います。組織における有為な価値を文書にして残し、いかに蓄積をし、いかに共有するかは「ジョブ型雇用」の時代にこそ、組織として挑戦していくべきことになっています。
「ジョブ型雇用」の前提となる、雇用に関する文書を「職務記述書(Job Description):JD」といいます。欧米では、この「職務記述書」とペアで使用する文書が「マニュアル」になるわけですが、マニュアルという言葉は、カタカナのまま日本語として概念化されています。
「職務マニュアル」が欧米に比べて広く定着していないことは、日本の雇用形態に原因があります。日本型雇用形態は、終身雇用が前提であり、こまごました職務の内容は属人管理に依存してきたという経緯があります。
今までの「文書主義」という言葉のニュアンスでは、「記録」や「証拠」に重きが置かれていましたが、「ジョブ型雇用」の時代を迎えることで企業の競争優位に資するというポイントと人材の流動化を積極的に受け入れていくために「職務マニュアル」が重要な文書となるであろうことを「文書主義」の第一歩としていくことを推奨しています。
「文書管理」とは
文書主義を組織文化として定着させるするためには、文書が適正に管理されている必要があります。
文書管理には二つの側面があります。一つは「守り」の側面で、他一つは「攻め」の側面になります。
「守りの文書管理」とは、まずは法定で保存期間が定められている文書、および説明責任などで組織の規定として保存年数が定められている文書を、指定された年数、所在も明確にして保存しておく必要があり、保存年数に達したならきちんと確認(記録)をとって廃棄していかなければなりません。
「攻めの文書管理」とは、「蓄積と共有と移動(Stock & Share & Transfer)」に尽きます。単に蓄積しても活用がなければ、それがいかに「宝の山」であっても意味をなす資料にはなりません。組織として、前に進んでいくうえで日々発生するホットな情報を、効率的に共有していくことができることで競争優位に立つことができますし、他に先んじた創造につなげる可能性を高めることに直結させられます。
例えば、スリーエムのポストイットは、開発した部門では失敗作だったものを異なる部門で異なる活用を考えだしたことで世界的な大ヒットとなりました。
文書の分類を「組織」と「職務」で分類し、組織文書の性質を「定例」「非定例」の2分類でとらえ、保存年数を組み合わせます。判断が必要なのは保存年数だけになります。すべての組織文書は「職務」から発生するという考え方です。
大中小分類のような、ややもすれば主観が混じるような分類法は、時間のなかで破綻しやすいという経験から、極力、客観的に分類するべきです。
「分掌」という平安時代のような言葉を使っている組織もありますが、組織は「職務(JOB)」で動いており、その結果として発生するのが「組織文書」です。
その「組織文書」を資産・説明責任・証拠として活用することを目指すのも文書管理の重要な役割です。
「Job型雇用」の時代が幕を開けるこれからの組織は、人材が流動していくことを前提にした取り組みが求められるようになると職務の定義と倫理的規範を明確な文書としておくことが不可欠になります。
まとめ
「文書主義」を標榜し、「職務記述書(Job Description):JD」と「職務マニュアル(Job Manual:JM)」を用意し、常時見直しながら実勢に合わせて即時的に修正していくこと。この「職務詳述書(JD)」がなければ「Job型雇用」に対応できませんし、「職務マニュアル(JM)」組織内の人事異動においても引継ぎや教育に不要なコストが発生してしまいます。
「職務マニュアル」が明確に文書化されているなら、職務遂行において発生する組織文書の扱いも規定されることになります。
「文書管理」は、単に電子化すればいいわけでもなく、リテンション・スケジュールに従って廃棄していけばいいだけでもなく、文書が発生する原点である職務に着眼することが組織文化を健全・強健にし競争優位に資するものだと考えています。
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