公文書問題

サブタイトル:日本の「闇」の核心

著者は「瀬畑 源」さんで、2018年の刊行のようです。wikiに情報がないようで、現在の身分は正確なところは不明ですが、この本を書いたときは一橋大学から長野短期大学へ転出したあたりのようです。

アマゾンで調べてみると著者の瀬畑さんは「公文書」と「天皇制」についての著述が多いようです。

はじめに」で、日本における公文書の根源的な問題点を指摘しています。その根本的な問題点として瀬畑さんが指摘しているのが、戦後の長期にわたる自民党政権と官僚との関係によって、情報を独占的に使用する体質が生まれてしまっていることを指摘しています。

そもそも近代の日本は明治期から作り上げられて来たわけですが、明治期の公務員は形式的には「天皇の官吏」であって「由らしむべし、知らしめるべからず」を原則としていたわけです。

自民党が下野した1993年から情報公開が政治的課題になり2001年から施行(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)されたものの、官僚からは、「批判が起きる」懸念を払拭できず、極力「私的メモ」とし、極力「議事録を残さない」という対抗策が常套化していきます。

公務員は、本来政治的には中立であり、国民のサイドに立って最良の便宜を図るのが使命であるはずですが、与党自民党のお家芸である「口利き」「政治介入」に便宜を図りながら官僚機構の自由度を極大化してきたというもたれ合いの関係が、「利害」という「」を生んでいるのが実態です。

それでも2009年、福田康夫さんが総理大臣のときに「公文書管理法」を制定し2011年に施行したものの、現実には、ほとんど内容的な変化をもたらしているわけでもないようです。

本の構成は、

第一部 情報公開と公文書管理はなぜ重要か
第1章 記録を作らない「法の番人」
第2章 情報公開の必要性
第3章 公文書と国益
第4章 外交文書を公開する意義
第二部 特定秘密という公共の情報を考える
第5章 特定秘密
第6章 会計検査院と特定秘密
第7章 特定秘密の監視
第三部 公文書管理と日本の諸問題
第8章 豊洲市場問題に見る公文書管理
第9章 南スーダンPKO文書公開問題
第10章 特別防衛秘密
第11章 森友学園関係公文書廃棄
第12章 私的メモ
第四部 公文書と日本人
第13章 国立公文書館
第14章 家計調査
第15章 立法文書の保存と公開
第16章 東京都公文書管理条例の制定
第17章 公文書管理法改正を考える
第18章 公文書の正確性とは

と、かなり本格的な構成で、日本の公文書管理のあり方を憂えていると同時に、歴史的にも、民主主義のためにも公文書管理は不可欠であり、重要な資料として後世に伝えなければならない公文書に対して、あまりにお粗末な扱いをしていることの問題を提起しています。

著者は公文書をないがしろにする傾向が際立って顕著になったのは安倍政権になってからだと指摘します。内閣法制局長官に横畠祐介という門外漢を無理やり就任させて、これまで日本国憲法では違憲としていた「集団的自衛権」を閣議決定したのですが、その際の協議内容を一切文書として残していないと言うことが明らかになりました。

その理由は明確で、単に記録を残すことに明確な不都合があるからです。政策の決定は歴史的事実の記録であって、国民共有の財産でもあります。同時に、行政が効率的に運営されるための資源でもあります。そして、現在だけでなく将来の国民に対する説明責任を全うするためのものでもあるわけですが、正当な政権運営をしていなければ、一切の記録(証拠)を残さないことに尽きるからです。

マックス・ウェーバーによれば「官僚は知識や情報を秘匿することで政治勢力より優位に立つ」といっています。昨今、「忖度」という言葉が流行りましたが、官僚が「忖度」しているのは政治家などではなく、政治家が持つ権力に対してであり「忖度」することが自身の保身と官僚機構にとって有用だからに過ぎません。

「忖度」されて喜悦満面の安倍政権になってから公文書管理がないがしろになっているということは、それだけ官僚が政治勢力より優位に立っていることの証左でしかないわけです。

行政文書の定義とは、

①行政機関の職員が職務上作成・取得したもの
②組織的に用いるもの
③その機関が保有しているもの

この3つが揃うことだそうですが、組織的に用いていない(共有しているわけではない)とか、機関として保有しているわけではないなどとあからさまに否定したことが加計学園問題でありました。

総理の意向」と言われた文科省の役人が省に報告した文書を「私的メモ」「怪文書」とした事案(現総理大臣の言ったこと)がありましたが、このように不都合な文書は行政文書とせず「私的メモ」としていつでも廃棄できるようにしています。

少なくとも国務大臣が臨席する会議や省議においては議事録作成は義務であるはずです。とくに外交に関しては、わが国にだけ記録がなければ相手国が情報公開した時点で、相手国の文書が歴史となってしまいます。

民主党時代の岡田克也さんのときに「外交文書原則30年公開」としたのですが、安倍政権になると大幅に後退したようです。それだけ安倍政権の政治勢力は、官僚にとってはやりやすかったのでしょう。その証拠に随分と長期化することができていました。

自民党が強行採決した「特定秘密保護法」というのがあります。

これを制定して一番喜んだのは「お役所」でしょう。なにか聞かれて都合が悪ければ「特定秘密に付き答弁を差し控えます」とすれば、何でもオッケーになります。情報公開訴訟が起きると裁判所でも当該文書を見ることができないので訴訟すら成立しなくなります。

森友問題では自裁した赤木さんの奥さんが民事訴訟を起こしており、なにが起きたかを克明に記録したとされる通称「赤木ファイル」の存在をめぐる争いになっています。裁判所は任意提出を提案しており国側は2021年5月6日までに書面で回答するとしていますが、結論は「個人のメモ」として廃棄済みで不存在とすることは明らかなことです。

公文書管理法」「情報公開法」「特定秘密保護法」。これらは相互の関連が極めて高い法律で、正当な運用をするならば民主主義を担保する有用な武器になるけれど、実際には民主主義に背を向ける武器となっています。

とくに、これらの法律をいいように使って情報公開を拒む役所は「警察」「検察」「国税」「防衛」「外務」などの権力官庁で、強行採決した背景としてこれらの権力官庁の強い意向があってのことと思います。

長期安定政権というのは、政権与党にとっての安定性ではなく、官僚機構にとっての安定性であり、彼らにとって都合がいい政党に政権を持たせ、できるだけ長期化させるようにがんばるわけです。仮に政権が変わったとして官僚にとって不都合な政権であれば、最大限短命にすることは自明のことです。

かつて民主党が短命だったのは、それ以前の次元でしたが、仮に官僚利益にとって大いなる脅威となるようでしたら、それが自民党であってもいかなる手を打ってでも排除しようとするはずですし、排除することができるのが今の日本の官僚機構です。

つまり、日本を民主主義国家として自立させるためには、

政治家の質を上げること
官僚機構を抜本的に見直し公僕化させる手立てを打つこと

などが課題になりますが、道のりは果てしなく遠い感じがします。

君の行く道は 果てしなく遠い だのになぜ 歯をくいしばり 君は行くのか そんなにしてまで

そもそもは、歯を食いしばって行こうとする「」が不存在なことに原因があるからなのでしょう。