文書管理と組織の関係

ある教育機関に「文書管理システム」を提供して3年が経過しつつあります。本年度中に、全国に展開している他拠点を包含する計画を実施中で他拠点からデータが集まりました(他拠点を包含すると「」レベルの組織単位が100を超える規模になります)。

この3年間のサポートを通して気が付いたこと、考えたことを「文書管理と組織」と言う切り口でいくつか書こうと思います。

※ 文中で「規定」と言う場合は「規程」も含めています。厳密には異なるのかは知りません。

文書管理をすること自体、それが「組織文書」である限り公的機関の文書であろうが企業内の文書であろうが管理する行為自体は同じです。しかし、管理する目的は違います。

公的機関は生き残りをかけているわけではありませんが、公的機関であるという性質上、税を無駄にすることなく、公平で公正な業務の執行をいつでも明らかにすることができることを文書管理の種たる目的としなければなりません。端的に言えば「民主主義」の実践をいつでも証明することができることを文書管理の主たる目的としていると言えます。

一方、企業活動における文書管理は法律を順守している事を証明することができるようにすることは最低の遵守事項であって、「競争優位」の実現(ありていに言えば集合知形成)を主たる目的としている言えます。

組織と組織規定

今さらで恐縮ですが、組織の定義をwikiを調べてみました。

共通の目標を有し、目標達成のために協働を行う、何らかの手段で統制された複数の人々の行為やコミュニケーションによって構成されるシステム

wiki

と書かれています。端的な話、生物を構成している各部位と、その集合がまさに「組織」と言えるわけで、すべての部位が整然と調整を図りながら役割を果たすことで全体として機能するようなものと言えます。

とはいえ、「組織」は自律的に機能するわけではなく、何らかの規律に依存しています。「組織規定」があるような規模の組織ならば、「分掌」が記述されていると思います。

一般的な「分掌」の書き方ですと、

事務全般の改善合理化・推進計画の策定及び促進に関する事項
役員の庶務事項および取締役会開催に関する事項


このように「~事項」と言うような書き方が羅列されていることが定型化しているように思いますが、これで「部署単位での業務範囲と責任を明確化」できるのが日本の組織規定のようで、欧米との根本的な違いは文書の管理に限らず「属人」に大きく依存している構造があります。

この抽象的な表現が日本の組織には不可欠なようで、アメリカとの根本的な違いになっているとも言えます。

分掌を考える

一般的に「分掌」というと「業務分掌」と「職務分掌」を指しているとされています。

大まかにいうと、「業務分掌」は、組織を構成している部門が果たすべき「責任」と、それに伴う「権限」を明確に記載した規定になります。「職務分掌」は、個々の社員が果たすべき「役割」や負うべき「責任」を明確にした規定と言うことになります。

英語では「division of duties」と言うと辞書に書かれていますが、直訳すると「義務の分担」あたりを意味しています。

ポイントは部門であれ、個人であれ組織に対して果たすべき「責任」に尽きると考えてよさそうです。同時に「責任」と表裏をなす「権限」も明確にしなければなりません。

※ 「分掌」と言う言葉が現代でも普通に使われています。原点を調べてみると「令義解(りょうぎのげ)」という平安時代に書かれた「大宝律令」の官撰注釈書の中で使われているようです。
「謂。〈略〉非分掌之職。為其分職故。不掌」と書かれているのですが、言わんとするところはいまのところ不明です。 「」には「つかさどる」と言う意味があるようなので「分けてつかさどる」と言うあたりが「分掌」の語源ではないでしょうか。

職務記述書

英語で「job description」を訳したのが「職務記述書」です。一つのポストに一つの文書として職務を明確に記述したものだそうです。雇用の前提であり、同時に成果評価の基準ともなり、契約の前提となる文書です。

日本では全く定着しませんでした。その理由は、 「job description」 がアメリカより日本に導入されたころの日本の雇用は「年功序列」が原則であって、同じ労働なのに古くからいる人材の賃金は、新しく配属された人よりお暗示仕事であっても高額であることを当たり前として受け入れていた就業背景がありました。

しかし、テレワークが普通に浸透してくると、個々の作業内容と責任が文書で明確化されていないと、成果の客観的評価も難しくなることが予想され、同じ仕事をしていても毎年ベースが自動的に上がっているような雇用形態は公務員では通常のことですが、成果を求められる職場では 「職務記述書」 に基づく雇用契約に移行していくことが考えられます。

※ 「職務記述書」は「職務分掌」とは異なるもので、「記述書」は雇用に直結しており、「分掌」は組織内の役割を詳述しているものになります。

作業マニュアル

アメリカでは 「職務記述書job description )」 によって雇用した人材に効率的に職務を遂行してもらえるように「作業マニュアル」が必須だったようですが、日本では 「職務記述書」 は受け入れられませんでしたが「作業マニュアル」は受け入れられ定着しました。

似ている文書名に「作業標準書」というのがあります。目的は同じで、作業を円滑に遂行するための文書ですが、 「作業標準書」 はやり方を詳述するもので、「マニュアル」にはもっと広範囲な(期待も含めて)記述がされているものになります。

何のために、何を、どこまでやるか」を共有するための文書であり、一般的には権限については明文化されないようですが、どのように考え、判断し、行動するかのノウハウが記載されているべきものと言えそうですが、とはいえ、多くは 「作業標準書」 がベースになっている傾向は少なくありません。

原点は 「職務記述書」 に付随していたもので、「成果」と「評価」の基準になるべき文書であったということです。

※ 「作業標準書」は記載されている内容をそのまま忠実に行うことを求める文書であり、「作業マニュアル」には、「ノウハウ」を中核にして発展につなげることができる文書と言えそうです。

文書管理と組織

事業体では、毎日たくさんの文書が発生(「作成」または「収受」)します。その文書は、上記で示したいずれかの「分掌」に属することが原則になります。

つまり、文書管理における文書の整理は「分掌」に紐づけることを原則とすることから始めます。文書管理を解説した書籍には「整理」「整頓」について説明してあるものもありますが、あまりこだわりはありません。「」は中国思想における重要な概念で「事物の条理法則」を言うようです。「」は「間をおかない」ことをいうようで、つまり「整理整頓」とは「間を置かず条理法則に従って整える」こととなるのでしょう。

これが「文書管理」の原点になります。つまり、組織文書は、組織における分掌(業務分掌であれ、職務分掌であれ)に付随させて速やかに整えることが前提になります。

ただ、事業体は多くの場合、競争を抱えており、常に優位を目指さなければなりません。競争優位を支えるのは人材であることは当然のことですが、集合知を支える有効な手段が「文書」であるわけですから、適正な文書管理ができている組織と、そうではない組織とでは、おのずから競争優位に大きな影響がでるものと考えます。

※ 「文書管理」における「整理整頓」とは外形的なことであって、文書を管理することの真意は「集合知」の形成と継承にあるわけです。

まとめ

組織にある規定で「分掌」が明確になっていることが求められること。

業務分掌であれ、職務分掌であれ、責任の範囲を明確にし、組織が求める内容が客観的に伝達できるように成文化されていることが必要であること。

分掌が明確になっていれば、日々発生する文書の管理が容易になり、さらに進めることで「集合知」形成の一助にもなり得ること。