「今昔物語集」という名前を、学校の授業で聞いたことがある人は多いと思います。しかし実際にどんな話が収められているのか、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。

教科書に載っている一部の話だけでは、その本当の面白さは伝わりにくいものです。実は今昔物語集には、笑えたり、怖かったり、しみじみしたりする話が満載なのです。

この記事では、今昔物語集がなぜ面白いのか、その魅力をたっぷり紹介していきます。

今昔物語集とは、どんな本なのか

今昔物語集は、平安時代の末期に成立したとされる、日本最大級の説話集です。「今ハ昔」という書き出しで始まり「トナム語リ伝ヘタルトヤ」で終わる説話が1000を超えて集められています。

その内、700有余話は仏教説話で、天竺(インド)、震旦(中国)、本朝(日本)を同一の仏教的基準のもとに整理してあります。

全部で31巻あり、うち3巻が欠巻になっています。本朝世俗としては22巻以降になります。

奈良・平安時代の文章の中心は僧侶か貴族になりますが、さまざまな身分の人々の暮らしが、生き生きと描かれているのは、とても貴重な特徴といえます。

一つ一つの話が短くまとめられているため、気軽に読み進められる点も魅力です。まさに、当時の人々の暮らしや価値観が詰まった、タイムカプセルのような一冊です。

芥川龍之介や谷崎潤一郎も題材にしている

今昔物語集は、いくつかの近代文学作品の元ネタになっています。

今昔物語集の話を元に書かれたことで知られている芥川龍之介の「好色(巻第30第1話)」「羅生門(巻第29第18話)」「鼻(巻二十八第二十話)」があります。

同様に、谷崎潤一郎の「少将滋幹の母(巻第二十二第八話)」もなかなかの力作です。オリジナルと近大作家の作品を読み比べすると、ますます、面白さが増すのではないでしょうか。

古典というと縁遠く感じますが、言葉遣いと風習が今と少し違うだけであって、結局は人の営みであるという点で共通することが少なからずあることに気づかされます。

今昔物語集を読むと、平安時代が少し身近な存在に感じられることでしょう。

不思議な話が満載の、幻想的な世界

今昔物語集には、幽霊や鬼、狐や狸など、不思議な存在が数多く登場します。夜道で出会った美しい女性が、実は妖怪だったという話も少なくありません。

死んだはずの人が生き返る話や、異界に迷い込んでしまう話なども収められています。現代のホラー作品や怪談話の原型のような雰囲気を、随所に感じることができます。

当時の人たちの認識として、魑魅魍魎が跋扈していた時代のことでもあるので、その辺が現代からするとむしと斬新な印象になるとも言えそうです。

科学では説明できない出来事を、当たり前のように受け入れていた時代の空気が伝わります。理屈で説明しきれない不思議さこそが、今昔物語集の大きな魅力の一つです。

人間くさい失敗や欲望が描かれている

今昔物語集の面白さは、登場人物たちの「人間くささ」にもあります。立派な僧侶が、実は隠れて悪事を働いていたという、皮肉たっぷりの話もあります。

欲に目がくらんで失敗する盗賊や、見栄を張って恥をかく貴族の話も登場します。千年前の人々も、現代の私たちと同じように、欲や見栄と戦っていたことがわかります。

清らかな教訓話ばかりではなく、生々しい人間の姿が包み隠さず描かれているのです。そうしたリアルな人物描写が、時代を越えて共感を呼ぶ理由になっています。

「昔の人も同じことを喜び、同じようなことで悩んでいたんだ」と思うと、親近感が湧いてくるはずです。

クスッと笑える、ユーモアあふれる話

今昔物語集には、思わず笑ってしまうような、コミカルな話も数多く収められています。間抜けな失敗をしてしまう登場人物や、とぼけたやりとりが繰り広げられる場面もあります。

真面目に語られているはずなのに、内容がどこか滑稽で、笑いを誘う話も少なくありません。当時の人々のユーモアのセンスが、話の端々からしっかりと伝わってきます。

古典というジャンルに含まれるのは、たまたま千年前の文章だからで、教科書的な古典というイメージとは正反対の、軽妙な語り口を楽しめるのも魅力です。

気軽に読み進めながら、思わずクスッと笑ってしまう瞬間がきっと見つかります。真面目な話と笑える話が入り混じっているからこそ、飽きずに読み進められるのです。

短い話が多く、読みやすい構成

今昔物語集の大きな魅力の一つが、一話ごとの分量が短くまとめられている点です。それは説話という、多くは散文的な語り伝えを伝聞として集めていることによります。

長編小説のように、じっくり時間をかけて読み進める必要がありません。

通勤や通学のすきま時間に、一話だけさっと読むという楽しみ方もできます。気に入った話だけを選んで読んでも、十分にその面白さを味わうことができます。

現代語訳や、わかりやすい解説付きの本も多く出版されており、入りやすくなっています。どこから読み始めても、話が独立しているため、順番を気にする必要もありません。

この読みやすさこそが、多くの人に親しまれてきた理由の一つだといえるでしょう。

千年前の日常が垣間見える面白さ

今昔物語集を読むと、当時の人々の暮らしぶりを、細かく知ることができます。どんな食事をしていたのか、どんな職業があったのかといった描写も豊富です。

病気や貧困、災害といった、当時の人々が直面していた現実的な問題も描かれています。歴史の教科書だけではわからない、生きた人々の姿を感じ取ることができるのです。

遠い昔の話でありながら、そこに描かれる悩みや喜びは、今と変わらない部分も多くあります。時代を越えて共感できる部分があるからこそ、今読んでも色あせない魅力があるのです。

昔の人々の暮らしをのぞき見るような感覚で、読み進めてみるのも面白いでしょう。

まとめ:今昔物語集は、人間ドラマの宝庫

今昔物語集は、不思議で幻想的な話から、笑えるコミカルな話まで、幅広く収めた説話集です。登場人物たちの人間くささが、千年という時を越えて、私たちの心に響いてきます。

一話一話が短くまとまっているため、気軽に読み始められる点も大きな魅力です。きっと、千年前の人々の姿が、驚くほど身近に感じられるはずです。

「今ハ昔」という書き出しですが「今となっては昔のことになってしまった」という受取ができますが、同時に「今って、実は千年前なんだけど」というように、自分を当時にワープさせてみるのも楽しみの一つになるのではないでしょうか。