What is LIFE?

ポール・ナースという人が書いた本だそうです。

同じタイトルでシュレーディンガーが1944年に書いていますが、その時点ではDNAは発見されていないですし、色々難しいことを書いているようです。

ポール・ナースという人が、シュレーディンガーと同じタイトルで、なぜ本を書いたのかは不明です。当然、なにか意図があったものと思うのですが、それについては本の中では触れていません。

まず、この本で気になった点が2つあります。

訳者が、時々文末に変な話し言葉のような、はたまた幼児言葉のような書き方をしているところが気になりました。これは出版社としてターゲットの設定から来ているのかもしれませんが、スカッと普通に言い切ったほうがよっぽどいいのにというところが散見されたのが残念でした。

それと、やはり最小限でいいから図があればいいのにと思うところがいくつかありましたが、これは著者が書いていなければ仕方がないですよね。


章立ては、

1.細胞
2.遺伝子
3.自然淘汰と進化
4.化学としての生命
5.情報としての生命

という構成になっていて順を追って読んでいくと「生命」が何かがわかってくると著者は言いますが、圧巻は5ステップの後に書かれている最終章の「生命とは何か」に尽きると思います。

著者は、酵母の研究から「細胞周期」を司っている「cdc2」という遺伝子を発見します。これがノーベル賞受賞につながったようです。

細胞が分裂するタイミングで遺伝子など一式揃わなければならないので、それを取りまとめるのが「細胞周期」ということだそうです。細胞周期はすべてが化学反応に基づいており、実行は遺伝子が作り出したタンパク質によるとのこと。

細胞分裂できない変異を持った酵母細胞を見つけ細胞周期のコントロールを不活化している変異を特定したことから「cdc2」を発見したのだそうです。

生命には3つの特性があると指摘します。

繁殖(複製)する能力があること
遺伝システムを備えていること
遺伝システムが変異し、生殖によって受け継がれること

この3つの特性は「細胞」と「遺伝子」によって担われています。細胞分裂によって受け継がれ、突然変異によって進化しているわけです。

遺伝的変異が多すぎれば「」が崩壊してしまうし、少なすぎれば「適応」ができなくなります。このバランスがうまく取れた「」が生き残れるという仕組みです。

広大な宇宙が時間を遡るとビッグバンという1点に収斂するように、生物の原点も1点に収斂するはずで、そのことについては最終章で触れています。

そこに触れる前に、人間の「cdc2」を取り出し、細胞周期が不活化した酵母菌に与えるとコロニーができる。つまり、人間の細胞と酵母菌とは、共通する仕組みで成り立っているということです。だから原点は1点に収斂すると断言しているのです。

最も古い生命の化石は35億年ほど前だとされています。その時、

膜に包まれた細胞
DNAに基づく遺伝システム
タンパク質に基づく代謝

どれが最初であったにせよ、この3つの要素がなければ生命たり得ないわけで、これについての明快な答えを人類はいまだに見出せてはいません。このことを知ることは難しいとしても、ともかく真核細胞が生まれ多細胞になるのか6億年ほど前。現生人類が生まれたのはごく最近のことでしかありません。

さて、いよいよ結論です。生命の結論として3つの原理を提示します。

最初の原理
・生殖し
・遺伝システムを備え
・変異すること
次の原理
・生命体は境界(細胞膜など)を持つこと
最後の原理
・化学的であること
・物理的であること
・情報的であること

この3つの原理が機能する存在は「生きている」とみなすことができるということになります。

なかでも、生命活動で重要な働きをしているのが「酵素」になります。生命活動のほとんどの現象は「酵素が触媒する化学反応」として理解するのがわかりやすく、特定の化学反応を引き起こすために必要な化学条件を「正確」に提供しています。

この「正確」であることとは、すなわち「情報処理」ということになります。生命の仕組みを理解する上で情報処理にもとづいた概念を理解することが不可欠になります。細胞はどうやって自分自身の状態を把握し、細胞周期を制御するために内部の化学的性質を整えるのか?

このあたりの鍵として重要な役割を持つのが「CDK」と呼ばれるタンパク質だそうです。

cdc2」遺伝子によって作られる「Cdc2タンパク質」は「タンパク質キナーゼ」と呼ばれる酵素で「サイクリン」と呼ばれるタンパク質と結合して活性化する必要があり、この複合体が他のタンパク質をリン酸化することで化学的性質を変化させるのだそうです。

つまり、「Cdc2+サイクリン=活性型CDK」が、細胞のスイッチとなって細胞周期を中枢的にコントロールしているわけです。

著者は、生命を化学的な精緻さを追求することより、どのような情報伝達で無数に存在する細胞を制御しているのかに、重点をおいて研究することの重要性を説いています。

情報」を中心に据えた生命観は、細胞が相互に作用して組織を作り、組織が器官を作り、器官が機能を作って行く方法の解明に光を当てられるのではないかと考えています。

感想

ノーベル賞を受賞したポール・ナースが初めて書いた本だそうです。訳者は、なぜ、彼が本を書いたかについて、一部の国家の主導者(主としてトランプ大統領でしょう)が、気候変動と二酸化炭素の関連を認めなかったり、新型コロナの感染予防とマスクを推奨しなかったりすることへの警鐘もあったのではないかと推察しています。

細胞周期が、あらゆる生物と共通しているということから生命の起源は1点に収斂すると断言しています。しかし、「細胞膜」と「DNA」と「代謝」が同時に発生するとも思えず、ここの部分は謎になります。ちょうど宇宙のようなもので、あまりにも「未知」な部分が多いように感じます。

DNAには30億もの塩基による記号が書かれていて、そこに2万2千の遺伝子が記述されているとのこと。とはいえ、すべての人間で同じ人間が一人もいないのは、DNAのうちの1%にも充たない変異が「」を作っているらしい。

変異が自然淘汰に不可欠な要素で、それが「」を存続させているわけで、その「」として半ば固定されている中にも「」があるということは、個を作っている可変領域のみに変異があるわけではなく、30億のDNA記号のどこにでも変異が起きると考えることのほうが自然です。

しかし、一般的には致命的な変異はレアな事象でしかないことから考えると、1つの機能(例えば知能とか運動能力とか)を複数の遺伝子が分散・複合して担っているとしか考えられない。なぜ、そうなっているのかは別として。

まさに「」でも持ち出さなければ宇宙のことも量子のことも生命のことも、行き着くところは「曰く不可解」でしかない気がする。

今を生きる人間としてできることは、生態系を壊すことに加担しないこと、二酸化炭素の排出を意識すること、外に出るときはマスク・手洗い・うがいを励行することあたりは、なんとかできそうです。

そして、ポール・ナースは「遺伝子組み換えの食物」に取り組まなければ人口増に対処できなくなると警鐘を鳴らしています。

    次の記事

    公文書問題